星呼びの歌
概要
カテゴリー | 詩・歌 |
作者 | 不明 |
成立年代 | ネルウァ衰紀末 |
概説
星呼びの歌(ほしよびのうた)とは、ネルウァ衰紀末に歌われたとされる二篇一組の詩である。
ドーン世界において現存する最古の詩であり、ネルウァ衰紀末からハルトト眩紀にかけて生じた「大断絶」以前から残された数少ない歴史的資料としての側面も持つ。
全文
星呼びの歌
夜の長い日
倦んでつめたい石に腰を下ろした
目蓋のむこうに ひとつ冴えた星
風の静かに 耳は澄む
遠くの彼も 目を閉じて待つだろうか
夜明けの鳥が鳴くころを陰の深い夜
久しく凍みた土の上に膝を折る
天幕は遥か 呼ばれる星はほど近く
峰やはらかに 朱く染む
遠くの君よ やがて目を開き空を見よ
仰ぐわれらの諸手にあかつき
仰ぐわれらの諸手にあかつき
解説
作者について
星呼びの歌はネルウァ衰紀末に作られた作者不明の詩である。
前半6行の懸歌と、それに対する応答としての後半7行の返歌の2篇で構成されていることが特徴。
伝統的には男女の間で交わされた歌であるという解釈が一般的であり、懸歌を女が、返歌を男が歌ったとするのが通説であるが、実際には作者に関する詳細は残されておらず、その一切は不明である。
また、現在でこそ一つの「星呼びの歌」として成立しているものの、作成当時から懸歌・返歌の関係として成立していたかどうかも不明であり、学者により見解が分かれている。
ネルウァ時代以前の資料の多くは「大断絶」によってそのほとんどが消失しているため、広く知られる歌でありながらその実情には依然として謎が多い。
作品の背景
この歌が生まれた背景として重要なのが、ネルウァ末期に邪教「星に祈る者たち」によって引き起こされた「呼ばれ星事件」、及びそれに伴って生じた「大断絶」である。
ネルウァの時代は世界規模の災害、飢饉、病の流行などが発生し、その傾向は衰紀において顕著であった。そのような中で人々の祈りは従来の神から星へと向けられた。
ドーン世界における星と世相の呼応関係を逆手にとり、人間の祈りによって星の運航に介入し、人為的に次なる暁星を呼び込むことで新しき秩序を構築する。このような救済信仰の総体が「星に祈る者たち」である。
星呼びの歌は二篇の歌によって構成されているが、前半部と後半部で従来の信仰の形と「祈る者たち」の思想の違いが顕著に表れている。
2行目の「ひとつ冴えた星」は当時の暁星であったネルウァを指している。第1連で描写される瞑目して祈りを捧げる姿勢は旧来のものであり、第2連で描かれる目を開いて空を仰ぐ特徴的な「祈る者たち」の様式とは対比構造を成している。
また、9行目に登場する「呼ばれる星」は、ネルウァの次の暁星であるハルトトを指しており、新たな星と新たな時代の到来の予感を歌い上げている。
ネルウァ末期の「星に祈る者たち」の活動は”成功”し、ネルウァからハルトトへの人為的な変遷を達成した。結果として引き起こされたのが未曾有の大災害である。強制的に変遷した星は世相にも甚大な影響を与え、当時の社会文明は壊滅的な被害を被る。あらゆる文化や歴史も徹底的に破壊され、「大断絶」と呼ばれる歴史的な空白期間をもたらした。
星呼びの歌は「大断絶」前夜を描いた現存する作品としての歴史的価値も持つ。
現在における受容
星呼びの歌はドーン世界に現存する最古の歌として広く親しまれている。吟遊詩人の多くが最初に覚える手習い歌としても有名であり、地域や階層を問わず歌い継がれている。一般的な男女の歌として、酒場などで歌われることも多い。
ただし、前述の通り「星に祈る者たち」との関連性の強さから、時代や環境によっては歌うのを憚られることもあった。
特にシウの時代は「祈る者たち」と鋭く対立した宗教組織「三指教団」全盛の時代であり、彼らからの弾圧を恐れて公然と歌われる機会は減ったとされる。